大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)224号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第二、第三号証によれば、本願発明は、平坦な帯状ケーブル中に設けられた光フアイバーの接続方法に関するもの(補正明細書第四頁第二行、第三行)であつて、周知の光フアイバーの接続方法の大部分においては、接続すべき二本のフアイバーを溶接又はコネクタで接続しているため、接続すべきフアイバーの各対を正確に位置決めする必要があり作業に時間を要し、かつ、現場での接続操作を困難にしていること、グループでフアイバーの接続を同時に行うものが提案されているが、高い精度で加工された位置決めマトリツクスを用いなければならないこと、複数の接続すべきフアイバーの端部を、フアイバーの軸と平行な軸に対して対称な二枚のプレートの位置決め用の溝に載置し、フアイバーの端部付近の被覆されている帯状部分に接着剤を数滴たらしてフアイバーをプレート上に固定し、平らな切断面が得られるようにフアイバー軸と垂直なプレートの対称面でフアイバーを慎重に切断し、フアイバーの余分な部分を除去し、フアイバーの端面が接触するように一方のプレートを他方のプレートと突き合わせて接続する方法も提案されているが、正確さを要する難点があること(同第四頁第一七行ないし第五頁末行)、以上の知見に基づき、これらの方法に比し簡単に光フアイバーを接続し得る方法、すなわち、フアイバーの端部の正確な切断を必要とせず、現場で容易に使用でき、しかも煩雑さがない方法を提供しようとするもの(同第六頁第一行ないし第五行)であつて、この技術的課題を解決するために特許請求の範囲第一項(本願発明の要旨)記載の構成(同第一頁第四行ないし第二頁第一二行)を採用したものであることが認められる。そして、前掲甲第二、第三号証によれば、本願明細書には、別紙図面(一)に図示された実施例について、「樹脂で固着されたプレート、光フアイバー及び押圧蓋の結合体(22)を図示しない支持装置上に置き、互いに一~三mm離して厳密に平行に置かれた二つの鋸カツタ(図示せず)により、これを除去すべき部分(21)を区画する面(19)、(20)においてダイヤモンド切断のために潤滑剤によつて潤滑しながら切断する。このとき、フアイバーに亀裂が生じないこと、面に関する厳格な平面性及び切断の垂直性が保たれること、振動がないこと、及び樹脂、プレート材料、押圧蓋材料を含む物質によつて光フアイバーに傷が付かないことなどを監視する必要がある。しかし、この切断は、厳密な垂直性を必要とせず一〇分程でできるので、現場での接続に非常に都合がよい。」(補正明細書第一二頁第一二行ないし第一三頁第五行)と記載され、ほかに本願発明の奏する作用効果についての格別の記載は存しないことが認められる。

2 第一引用例及び第二引用例に審決認定の技術内容が記載されていること、本願発明と第一引用例記載のものとの一致点、相違点について審決の認定、及び相違点<1>ないし<3>についての審決の判断は、当事者間に争いがない。

原告は、右相違点<4>、すなわち、本願発明は、(ニ)~(ト)において、最初の段階では接続すべき光フアイバーを一つのプレート上に配し、(ヘ)において接着剤又は合成樹脂の凝固により、これと一体化したプレート、フアイバー、及び押圧蓋により構成された結合体を、一定間隔をもつ二つの平行な面において切断し、切断面間に含まれる部分を除去し、(ト)に記載される工程を経て光フアイバーを接続するものであるが、第一引用例記載のものは、(c)~(f)により、二つの光学繊維突合せコネクターを始めから別個に作り、これを突き合わせて(f)の工程を経て光学繊維を接続するものである点について、審決は、本願発明と第一引用例及び第二引用例記載のものとの技術的課題及び作用効果の差異を看過誤認した結果、右相違点に係る本願発明の構成は当業者が容易に想到し得たものと誤つて判断した旨主張するので、この点について検討する。

前記1認定事実によれば、本願発明は、従来技術に比し簡単に光フアイバーを接続し得る方法、すなわち、フアイバーの端部の正確な切断を必要とせず、現場で容易に使用でき、しかも煩雑さがない方法を提供することを技術的課題とするものであり、ここに、端部の正確な切断を必要としないとは、光フアイバーの端部の切断において厳密な垂直性を必要としないことを意味するものであり、この技術的課題を達成するために本願発明の要旨とする構成を採用したものということができる。

一方、成立に争いのない甲第四号証によれば、第一引用例記載のものは、「比較的に少ない工程で大きな数の光学繊維を経済的に、かつ確実に継合すること;中心対中心の軸の配置が非常に精確になるように、多くの光学繊維を所望の端配列のX―Y形体で配列されること;および継合点において最小の工作の多量組立によつて光学繊維の多量域継合が達成されること」(第二頁左上欄第八行ないし第一五行)を技術的課題とし、これを達成するために審決認定の構成を採用したものであつて、切断については、片(10)上に光学繊維層を配し、これを固着後「繊維端と片の端とを全て繊維軸に垂直な選定された面の上にあるように組立物を一面上に切り目を入れることによつて繊維端が作られる。」(第三頁右上欄末行ないし左下欄第三行)と記載されていることが認められるから、比較的少ない工程で、かつ煩雑さを要せず光フアイバーを接続する方法を提供することでは本願発明と技術的課題を共通にするが、端部の切断において厳密な垂直性が要求せられる点においては本願発明とその技術的課題を異にするものである。

また、成立に争いのない甲第五号証によれば、第二引用例記載のものは、低接続損失の接続ができ、信頼性の高い、安価で実用的な光フアイバー接続器を提供すること(第一頁右上欄第六行ないし第八行)を技術的課題とし、これを達成するために審決認定の構成を採用したものであるが、先端を切断した二本の光フアイバーをV字ブロツクのV字形構内に配置して審決認定の工程によりフアイバーとVブロツク及び押え板を接着一体化した後においてこれを切断することは全く予定されていないことであり、したがつて、この一体に形成したものを二つの平行な面で切断することはその技術内容に含まれていないから、本願発明とは技術的課題を異にすることが明らかである。

しかしながら、光フアイバー端部の切断に関する本願発明の構成要件は、(ヘ)の「プレート、フアイバー、接着剤又は合成樹脂及び押圧蓋によつて構成された結合体を一定間隔をもつ二つの平行な面において切断し」であつて、この切断には、本願明細書の実施例に示された結合体を一定間隔に平行に置かれた二つの鋸カツターによつて切断する手段のみでなく、結合体を一つの鋸カツターを用いて一定間隔をもつ二つの平行な面において順次切断する手段をも含むことは当事者間に争いがなく、後者の場合には、二つの切断面が互いに平行となるよう厳密に測定して切断しなければならないことは技術的に自明である。

そうであれば、第一引用例記載のもののように、光フアイバー端部の切断に厳密な垂直性を要求されるものと、本願発明のように厳密な平行性が要求される(厳密に平行であることの概念には厳密に垂直であることをも含んでいる)ものとの間には、切断の技術的困難性において格別の差異があるとすることはできない。

しかも、本件出願前に頒布された刊行物である昭和五〇年特許出願公開第一〇九七三六号公報(乙第一号証)には、光フアイバーケーブルの接続部形成方法として、第3図(別紙図面(四)参照)に、光フアイバー(6)、(6)を固定充填物(7)を用いて被覆し、この充填物(7)の外側に軸合せ治具本体(8)を固着した後、第3図(ハ)のA―A線で切断して端末面(10)、(10)´を形成し必要時に切断された端末面(10)、(10)´を合わせるだけで、直ちに切断面の正しい整合位置で接続できる方法が記載されていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証によれば、乙第一号証記載のものは、従来光フアイバーケーブルを接続して接続部を形成するために「各フアイバー毎に光軸を精度よく接続固定しなければならないので、その作業に可成りの時間と熟練を必要とし、このようなフアイバーが多数本あるため全体としての接続作業に多大の労力と時間を要することになるだけでなく、(中略)軸合せが極めて困難となつたり、結合損失のばらつきが一層大きなものとなつている」(第一頁右下欄第一一行ないし第二頁左上欄第六行)との知見のもとに「このような難点を解消できる接続部の形成方法を提供しようとする」(同欄第七行、第八行)ことを技術的課題とし、その解決のために前記構成を採用したものであることが認められる。

右認定事実によれば、乙第一号証記載のものは、本願発明のようにフアイバー端部の正確な切断を必要とせず、簡便にこれを接続できる方法を提供することを技術的課題とし、切断に厳密な垂直性を必要としない構成を採用しているものであつて、光フアイバーの接続方法において、その端部の切断に厳密な垂直性を要求されないという技術的課題は、本件出願当時、当業者にとつて格別新規な、あるいは特異な技術的課題であつたということはできない。

この点について、原告は、本願発明において切断に厳密な平行度を要することは認めるが、この厳密さは、フアイバー軸との相互関係における厳密さでなく、二つの面の平行という相互関係における厳密さである旨主張するが、光フアイバーの端部を結合させるために技術的に要求される厳密さである点では、軸に対して垂直であるか面に対して平行であるかによつて異なるところがないから、このことから本願発明と第一引用例記載のものは技術的に異なるとすることはできない。

また、原告は、本願発明では接続すべき複数の光フアイバーは連続的に製造した単一の長尺のものを切断したか否かを問わないし、切断、接続を共に現場において行う本願発明と、切断は工場において行い、接続は現場において行う乙第一号証記載のものとは全く別異のものである旨主張するが、両者は帯状ケーブル中に設けられた光フアイバーの接続方法に関するものである点において技術分野を共通にしており、乙第一号証記載の技術内容は、この技術分野において本願発明の解決しようとした技術的課題が当業者にとつて格別新規あるいは特異な技術的課題でないことの認定資料とするものであつて、原告主張の点の差異は右認定に影響するものではない。

さらに、原告は、乙第一号証記載のものは、光フアイバーの端部を慎重に厳密に垂直になるように切断しているものである旨主張するが、前掲乙第一号証によれば、乙第一号証記載のものは、前記技術的課題を達成するための構成を採用したものであり、このことと乙第一号証に記載された接続作業に関する記載(第二頁右下欄第一行ないし第八行、第三頁左上欄第一行ないし第一六行等)からみて、切断した同じ端面で再び接続して光軸を一致させていることが認められるから、切断に厳密な垂直性を要しないことは明らかである。

したがつて、乙第一号証記載のものに関する原告の主張はいずれも理由がない。

そうであれば、本願発明と第一引用例及び第二引用例記載のものとの技術的課題に前記認定の差異があつても、両者は光フアイバー端部の切断の技術的困難性において格別の差異をもつものではなく、また、本件出願当時、本願発明のような光フアイバー端部の厳密な垂直性を要しない切断という技術的課題は、当業者にとつて格別新規あるいは特異なものであつたとはいえないから、技術的課題の差異のために、第一引用例記載のものにおいて、審決認定の周知技術を適用して本願発明を得ることが当業者にとつて容易に想到し得ないこととはいえない。

そして、当事者間に争いのない第一引用例の光学繊維接続方法(二)及び第二引用例のフアイバー接続方法に示されている技術は、複数の光フアイバーを一つのプレート上で接続し一体化する点で本願発明と同一の技術内容を開示しているものであり、この技術は本件出願当時周知の技術であつたということができる。したがつて、第一引用例記載のものにおいて、二つの光学繊維突合せコネクターを始めから別個に作り、これを突き合わせて(f)の工程を経て光学繊維(光フアイバー)を接続する構成に代えて、右周知の技術を適用し、接続すべき光フアイバーを一つのプレート上に配し、接着剤又は合成樹脂の凝固により一体化したプレート、フアイバー及び押圧蓋により構成された結合体を、一定間隔をもつ二つの平行な面において切断し、切断面間に含まれる部分を除去し、(ト)の工程を経て光フアイバーを接続するように構成することは当業者にとつて容易に想到し得たものというべきである。

この点について、原告は、第一引用例記載のものは審決が認定した「互いに平行な継合端を有する二個のコネクターとして構成したもの」ではない旨主張するが、審決の右認定は、第一引用例記載のものの(f)「突合わせ端の表面を光学繊維の光学軸と垂直であるように研磨して作つた光学繊維突合せコネクターの一対(19)、(20)」を意味することは前記審決の理由の要点に照らし明らかであつて、第一引用例記載のものは切断に厳密な垂直性を要するものであるが、このことが相違点<4>に係る本願発明の構成の容易推考性を判断する妨げとならないことは前述したとおりであるから、原告の右主張は理由がない。

また、原告は、第二引用例又は第一引用例の光学繊維接続方法(二)の複数の光フアイバーを一つのプレート上で接続して一体化したものは、これで光フアイバーの接続が完了しており、これを再び二面で切断することは不自然、不都合である旨主張するが、審決は、第一引用例記載のものの前記構成に代えて、固着して一体化したものの先端を切断して突合わせ端として形成する際に複数の光フアイバーを一つのプレート上で接続し一体化する周知技術を適用して本願発明を得ることが容易であつたと判断し、その周知技術として第二引用例及び第一引用例の光学繊維接続方法(二)を引用しているのであつて、これを再び二面で切断するとしているのでないことは、前記審決の理由の要点から明らかであるから、原告の右主張は理由がない。

そして、前記1認定事実によれば、本願発明は、光フアイバーの端部の切断に厳密な垂直性を必要とせず、かつ現場での接続操作が容易であるという作用効果を奏するものであるが、本願発明においても切断は厳密に平行になされることを要し、したがつて、切断に厳密さを必要とするという点では第一引用例記載のものと格別の差異がないことは前述のとおりであり、また、現場での接続操作の容易性についても第一引用例記載のものに前記周知技術を適用することによつて当業者が通常予測し得る範囲のものということができるから、本願発明の奏する作用効果を格別のものとすることはできない。

3 以上のとおりであつて、相違点<4>についての審決の判断に誤りはなく、本願発明は、第一引用例(審決認定の光学繊維接続方法(一)、(二))及び第二引用例記載のものから当業者が容易に発明をすることができたものというべきであるから、審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

ケーブルの平坦な帯状被覆内に設けられた光フアイバーを接続する方法において、

(イ) フアイバーを固定している上部及び下部の帯状被覆を剥がし、

(ロ) 前記上部及び下部の剥がした帯状被覆の先端を切除し、残りの剥がした下部帯状被覆を折り曲げてフアイバーの接続部分を露出させ、

(ハ) 接続すべきフアイバーを接続プレートの位置決め用V字形溝内に配する前にフアイバーの端部を適当に切断し、

(ニ) 接続すべきフアイバーを前記プレートの位置決め用V字形溝内に配し、

(ホ) 前記プレート上に配された接続すべきフアイバーの長手方向の少なくとも一部に接着剤又は合成樹脂をフアイバーの端部まで塗布し、次いで接着すべきフアイバーの長手方向の上部に押圧蓋を配し、

(ヘ) 前記接着剤又は合成樹脂が凝固した後、前記プレート、フアイバー、接着剤又は合成樹脂及び押圧蓋によつて構成された結合体を一定間隔をもつ二つの平行な面において切断し、切断面間に含まれる部分を除去し、

(ト) 前記プレートの残つている部分の切断面同士を、フアイバーの芯の屈折率に近い屈折率の液又は凝固可能な樹脂を挟んでフアイバーの端部を一致させながら突き合わせ、前記プレートの残つている部分同士を互いに押圧してこれらを固定する前記各ステツプを有する光フアイバーの接続方法。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!